「くぅ……うっ……」

 ぐちゅぐちゅと水音を立てて、鬼の指が自分の腹の中で動きまわっている。
その淫らな音を信じられない思いで聞きながら、葵は小さく喉を鳴らした。
異物の侵入を拒もうと後孔が締まる度、余計に鬼の指を咥え込むことになって、葵は痛みと苦しさに瞼を震わせる。

 大きく足を開かされ、はしたなく声を上げる己の姿に、羞恥からじわりと涙が滲んだ。
せめて悲鳴だけは上げないようにと固く唇を引き結ぶと、頭上から不機嫌そうな声が降ってくる。

『       』

 むずがる子供のように、ゆるく首を振る葵に、鬼は苛立たしげに眉を寄せる。
そうして、葵の中を犯している指の動きを一層激しいものにした。
内壁を引っ掻き、粘膜に指を這わせると、葵の身体は打ち上げられた魚の様にびくびくと跳ねる。
葵の反応に気を良くしたのか、鬼はくつくつと喉を鳴らした。

 どうして、なんで、もう許して。
そればかりが、頭の中をぐるぐると回っている。
この身を蹂躙するのが鬼だと言うのなら、いっそのこと喰らってくれれば良いのに。

 苦しい息の下、薄く目を開くと月の光を反射する金糸の間から、獲物を前にした獣の様に光る蒼と視線が交わる。
反射的にひくりと後孔が震え、今まで何とか耐えていた悲鳴が吐息と共に漏れた。

 その瞬間、鬼が小さく息を呑む。
舌打ちしながら何事かを吐き捨てると、鬼はずるりと葵の中から指を引き抜いた。

「ひぁっ――!」

 ずるりと内壁を擦りあげられる感覚に、葵は肌を粟立たせて仰け反る。
そうして、荒い呼吸を繰り返す葵の体を、鬼は軽々と転がしてうつ伏せにした。

「あっ……、なに……を」

 鬼は混乱する葵を置き去りにし、両の手で葵の腰を掴むと尻を高く上げさせる。
次いでひたりと後孔に当てられた熱に、さしもの彼も本気の抵抗をみせた。
床に擦られる額と肩が痛みを訴えたが、それに構っている場合ではない。

「や、めて……、いや、あ……あっ!」

 這いずる様にして距離を置こうとするが、上体を抑えつけられてはそれもままならない。
必死の抵抗すら易々と阻まれ、葵は屈辱に唇を噛んだ。
片手で葵の肩を抑えたまま、鬼は固く勃った男根で幾度か後孔の入口を突き、彼の腹の中へと押し入った。

「あ、ぐぅ……っ、く、あっ」

 普段は慎ましく閉じている穴を無理やり広げられる痛みに、葵の喉からくぐもったような呻き声があがる。
脂汗が葵の米神を伝い、顎へと滴り落ちていく。
ぐらぐらと目が回り、どうにか籠った熱を外へ逃がそうと息を吐き出した瞬間、鬼のそれがずるりと根元まで入り込んだ。

「――っ!」

 声にならない悲鳴をあげ、葵は頭を仰け反らせて目を見開く。
空気を求めるように開閉を繰り返す唇は戦慄き、絶望を滲ませる黒い瞳からは一筋の涙が伝った。
葵の背に覆いかぶさっていた鬼は、彼の耳元で熱い息を吐き、葵の腰を掴みなおしてからゆっくりと男根を引き抜く。
ぎりぎりまで引いたそれで、叩きつけるように穿たれて、葵は苦痛の声を漏らした。

 始めはゆっくりと小刻みに、きつい穴に差し込んでは引きずり出す。
侵入者を拒むようにきつく締め付ける内壁に、鬼は気持ちよさげに喉を鳴らした。
より深く快感を貪るがごとく、次第に鬼の腰の動きが大きくなり、そして速度を増していく。

 初めに塗り込められた葵の精液と、鬼の体液とが混じり合い、耳を覆いたくなるような音が部屋の中に響いた。
きめ細やかな象牙色の肌を汗が伝い、擦られて泡立った白い粘液が、結合部から溢れ出て葵の陰部を汚す。

 熱いのか、痛いのか、苦しいのか、もしくはその全てなのか。
ぐらぐらと揺さぶられる頭では、それすらも分からない。
鬼の腰の動きに合わせて、己の喉から声が漏れるのを、葵は他人事のように聞いていた。

「あぁ……、あ……、あっ! あっ! あっ!」

 徐々に激しくなっていく抜き差しに、鬼に限界が近づいているのを知る。
早く終われと、葵はそれだけを考えながらきつく両手を握り締めた。

 その時、唐突に鬼が片手を伸ばし、律動に揺れていた葵の男根に触れた。
力なく垂れていたそれに指を絡め、先端に軽く爪を立てる。

「ひぁっ――っ!」
『っ――!』

 与えられた刺激に、葵は仰け反って悲鳴を上げ、絞り上げる様に鬼の性器を締め付けた。
葵の背後で、鬼が小さく息を呑み、葵の腰を掴んでいた手に力が込められる。
次の瞬間、鬼は一際強く腰を押し付け、葵の体内に欲望を吐き出した。

「あぁ……ぁ……あっ……」

 鬼の陰茎がびくびくと震え、内壁に熱い粘液が叩きつけられる度に、反らされた葵の上体が痙攣したように跳ねる。
腹の中に広がっていく熱に意味もなく声を上げてから、葵はくたりと床に倒れ込んだ。
しっとりと汗ばんだ背中が、荒い呼吸に合わせて上下する。
己の首筋に張り付いた黒髪を、蒼い瞳がじっと見つめていることには気付かず、葵はただただ気怠い身体を持て余していた。

 不意に伸びてきた白く骨ばった指が葵の顎を掴み、無理矢理に背後へと顔を向けさせる。
体内に鬼の男根を収めたまま、苦しい体勢で身を捻らなければならない苦痛に、葵は呻きながら眉を顰めた。

 ぼんやりとした視界の端に、汗を吸って湿り気を帯びた金糸が映る。
それは、窓から降り注ぐ月の光を受けて、きらきらと輝いていた。
考えることを拒否する頭の奥で、しわがれた老婆の声が響く。

『葵様――……、よう覚えておきなされ。決して、“鬼”に近づいてはならぬよ』

 それがいつ、どのような場面で発せられたものであったのか。
思い出す間もなく、葵の意識は暗い闇の中へ沈んだ。




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